胡蝶蘭を贈ってみた

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退職祝いに…メルヘン花束

かなり前、のんびりした観光地の、小さな雑貨・みやげ物店で働いていた時の経験です。そこには私の他に、女性店員が二人、そして男性店長がいました。店長は、この店の本社で以前働いていたのを、定年を越えてもぼちぼち働きたい…ということで配属されていたのだそうです。ですがさすがに、田舎道をだいぶ歩いての通勤がしんどくなり、また近年、奥様の体調があまり芳しくなくなったことから、完全に退職をされる運びになりました。

 

 本社側からすれば、すでに前線を完全に離れ、窓際配属だった人の退職ですから、例えばお祝いの会の場を持つことなどは全く言ってきませんでした。私たち3人の女性店員とも、毎日出勤して顔を合わせていたわけでもなく(店長は週に数日の出勤で、事実上の店のリーダーは、一番年かさの女性店員だったと思われます)、ただ「今度の●日で、私もう来ませんからねー」と脱力気味に通知されただけでした。

 

 ただ、それではあんまり無味乾燥しているよね…と、女性3人の間で話し合いました。さほど親しいわけではないけど、やはり何かお祝いと感謝、それにリスペクトの意味をこめて、何か贈るのはどうだろうか。そんなわけで、各自300円を託し、花束を贈呈することに決めました。

 

 店長が店を去る日、それは温かい早春の日でした。お客が途切れたタイミングを見計らい、リーダー女性店員が「よしっ未だ!」とエプロンを外して、花を買いに走ったのです。

 

 やがて閉店時間となり、店長が「それでは皆さん、お元気で~」と言いかけたあたりで、隠しておいた花束を渡しました。買いに行った先輩店員以外、私たちはびっくりしたのですが、それは細身の彼女が両手いっぱいに「抱きかかえるように」するほど、あふれんばかりの大きなスイートピーの束でした。

 

 あとで種明かしされたのですが、先輩は花屋の店頭で予算の花束を見ましたが、あまりにも小さいのでガックリし、近くの農家さんのもとへ走ったのだそうです。そこで出荷が始まったばかりのスイートピーをだいぶん大目にわけてもらい、その後こっそりと店の在庫リボンなどで装飾を施して、立派な花束に仕上げたのでした。

 

 全く予想していなかったのでしょう。店長は「いやー私みたいなおじいちゃんに、こりゃ大層メルヘンなお花畑ですね、ありがとう!」と、大照れに照れて、それでも笑顔をほころばせて去って行かれました。以来、スイートピーの季節になると、機転を利かせた先輩社員と、老店長との日々を懐かしく思い出します。